レビュー,

この本は、前回紹介した文庫『怖い絵』の著者と同じく、中村京子さんが書いた本です。

絵自体が怖いのではなく、その絵が描かれるまでのストーリーが、怖い。

2021年上半期は、中野京子さんがマイブームだったので、中野京子さんの本はほとんど読みました。

その中でも、文庫『怖い絵』と同じぐらい面白かったのが、この本。

今回紹介する新書『印象派で「近代」を読む』は、3ページに一回くらい絵画をカラーで説明してくれるので、かなり気軽に読むことができます。

トイレや寝室に置いて、ボーッとしたいときに眺めるのもいいかもしれません。

読書が苦手な方でも楽しめるほど、退屈な字面が少ない、芸術解説系の本にしては珍しい本です。

この本の面白いところは、絵画自身の話をするのではなく、その絵画が描かれた当時に生きていた人たちの人生を、絵画を通してリアルに想像させてくれるところです。

日本では、印象派展が頻繁に開催されているほど、ファンが多いですよね。

では、なぜ日本では印象派が人気なのか?

それは、印象派は絵画の知識がなくても楽しめるからです。

エッ?それまでの絵画は、知識がないと楽しめないものだったの?とお思いのあなた。

はい、その通りです。

それまでの絵画は、知識がある人達のマウントの取り合いのために描かれていた

パロディが面白いのは、原作を知っているから。

絵画も同じです。

今までの名作を真似して、自分の味を出す。もしくは、原作をもとに、自分の味を出す。

だから、その絵画が何を言いたいのか汲み取ることができなければ(原作を知らないのなら)、その絵画自身には何の面白みもないんです。

そんなマウントの取り合いが行われる中、印象派がなぜ人気になることができたのでしょうか。

興味がある方にはぜひ読んでほしい一冊です。

印象派(ゴッホ、モネ・・・)の絵画がすごく好きで、展覧会に足を運んでいる方にも是非読んでほしい!

展覧会の音声ガイドよりよっぽどわかりやすく、そして面白く解説してくれているので。

そして何より、キレイな絵をじっくり見ることでうっとりできるので、やっぱりこの本は最高です。

レビュー,

絵画好きの方の間では、有名なこの著書。

「怖い絵ってタイトル、安直だなあ。どうせ絵自体がゾッとするものなんでしょ?」と思っていました。読む前までは。

結果的に言うと、絵自体が怖いものと、絵自体は全く怖く見えないものが半々でした。

では、絵自体は怖くないのに、なぜ"怖い"と感じるのか?

著者では、絵画がカラーで掲載されて、その後その絵画の怖さについてストーリーで解説されています。

なので、絵画を見て、「ん?この絵のどこが怖いんだ?」と疑問を持つほど"普通"な絵もあります。

そして、その絵画が描かれるに至ったストーリー理解した後に絵を見直すと、その絵の怖さを理解してしまい、ゾッとするんです。

私たち読者は、この本を通して、人間の残酷さと残虐さを目の当たりにします。

人間が人間であるが故に持っている、普遍的な残酷さと残虐さを。

そして、「昔あった怖い話」が現代にも通用することに、ゾッとすることでしょう。

少なくとも私は、「絵自体は全く怖く見えないもの」の方が、恐ろしかった。

なぜなら、その世界観に違和感を感じないほど、私自身もその残酷な世界に馴染んでいるという証拠だから。

この本で特に印象的だったのは、著書の中で紹介される、ダヴィッドによる「マリーアントワネット最後の肖像」と、ジョルジョーネによる「老婆の肖像」です。

(どちらもググったら出てくるので、ぜひググってみてね)

これは、私が女性だからというのが影響しているかもしれません。

昔の女性の人生と、現代の女性の人生を考える上で、ぜひ読んでほしい一冊ですね。

読者は、魔女裁判の恐ろしさを、人に嫌われることの恐ろしさを、異端を排除する民衆を、人間の感情の豊かさと、その感情に支配される人間を、この本を通して目の当たりにするでしょう。

そして、現代にもそれを必然的に投影してしまう。

一見、現代は中世に比べ、優しくみえるかもしれません。

しかし、その優しさがこれからも続く保証はない。(そして、その優しさは、本当に"優しい"のでしょうか?)

なぜなら、人間は生まれ持って残虐だからです。

少々不穏な感想になりましたが、エンタメとしてもめちゃくちゃ面白い本なので、ぜひたくさんの人に読んでほしい一冊です。

↑Kindleが最安なのでKindleがオススメですが、読むときはKindleではなくタブレットで読む方が絶対にいいです。絵画はカラーで見ないと面白くないので…

なぜ日本では印象派が人気なのか?が分かる一冊。

レビュー,映画

職場の映画好きな先輩にオススメされた、ミッドサマー。

『ずっと気になってはいるんですけど、見る勇気がないんですよね~』

「ミッドサマーはグロ耐性があるなら面白く見れると思うよ。グロいの大丈夫?」

『SAWとかは見てました!』

「じゃあ余裕だよ~!」

『あんなに映像きれいなのに、結構グロいんですね…俄然興味湧いてきました。どういうジャンルの映画ですか?』

「う~んとね、スカッとする系かな?私はハマって、映画館で2回も見たよ!」

『ええ!スカッと系?!しかも2回!うわ、絶対見ますね!!』

こんな流れで視聴したので、ネタバレ込みで感想を書いていきたいと思います。

ネタバレ踏みたくない方は今ブラウザを閉じてくださいね!

それでは、感想です!

↑今ならAmazonprimeで視聴できますよ~!

あらすじ

ザクッとあらすじを紹介します。

大学生5人(ダニー・クリスチャン・ジョシュ・ペレ・マーク)が、論文のネタ探しのため、ペレの出身地であるスウェーデンの小さい村に2週間行く。

村の人たちは彼らを歓迎する。

「明日から90年に1度の、大祝賀祭があるんだ。楽しんでいってくれ!」と。

その大祝賀祭の中で、大学生たちが殺されていく、っていうお話ですね。

そんなミッドサマーを見て、一番最初に出てくる感想は、「見ていて勉強になるなあ…」でした。

勉強になるポイントの1つ目は、クスリを摂取している場面の表現力の分かりやすさ

村に一歩踏み入れた主人公ダニーとクリスチャン(二人は別れかけのカップル)に対して、村出身の人から「初めまして!よっしゃ、クスリやる?」っていう提案があり、いろいろあってクスリを摂取する。(※かなりストーリーを省略しています)

すると、植物が生きているように動き出すような映像が流れる。

これで、「あ、クスリをやるとこういう見え方になるのね~」というのを視聴者に植え付ける。

そこから、その村で主人公二人が何かを飲むたび、植物が生きているように動き出す。

ダンスの前の飲み物。ダニーがダンスで勝ち、クイーンになった後の、食事の場面。

ずっと植物が動いているんですよね。

それによって「ああ、今トリップ中なのね」と分からせると同時に、不思議な映像を通して視聴者の不安を煽る。

いや~~、映像技術+説明しないで状況を表現する技術がすごいね~!!!

その表現を踏まえた上で、この村の住民は薬物中毒者ばかりじゃん?!ってなりました。

だって、祝賀祭とは言え、終始トリップしすぎでしょ。

でも、だからこそ、この共同体のあり方に納得できた。

この村では、18歳のサイクルで人生を「季節」と表しており、18歳までは成長期の「春」、18〜36歳までは外の世界へ旅立つ「夏」、36〜54歳は労働する「秋」、そして54〜72歳は教育係となる「冬」なんですって。

これを踏まえて、映画の途中、疑問に思うことがあって。

この村で育った人たちは18歳~36歳まで、外の世界へ旅立つんですよ。

なのに、この村の考えがおかしいってならないの?って。

だってペレは、村以外の世界にかなり馴染んでたじゃん?って。

この疑問に対して、薬物中毒者ということなら、ちょっと納得できる。

自分の故郷にいるといい気持ち(=トリップ)になれることが多いし、みんな家族だということを示すような団体行動も多くて共感しやすい。

もしかしたら自分は死ぬかもしれない(祝賀祭の供物として選ばれるかもしれない)けど、それはそれとして納得している。それに対する恐怖は、クスリで凌駕する。(実際に、映画の終盤、村人の中から供物として立候補した人たちすら、死の儀式を恐れていた。その恐怖は、クスリを摂取してなんとか耐えていたようだった。)

うん、そう考えると納得できるなあ。

勉強になるポイント2つ目は、組織の方針に疑問を持つ人すら、満足感を持って仲間に引き込むことができるレベルの勧誘力

ダニーは、初日~3日目ぐらいまで、「おかしいよこの村…」と言っています。

一方で、村の人たちは、「時々外から人を呼ばないとこの共同体を維持できない(近親相姦的な意味で)」からか、ダニーを仲間にするために行動しているようにみえる。

確かに、今回招かれた客の中から仲間を選ぶとしたら、ダニーはまさにカモですよね。

ダニーは今弱っているし(旅行前に家族を亡くした上に、頼れるはずの彼氏も冷たい)、頼まれたら断れない性格だ。

必要以上に空気も読むし、人に合わせるのが上手。

(初見ダンスをほかの人に合わせるのうますぎじゃない?)

そのダニーの弱さにつけこむかのような、「私たち家族だよ」という住民によるアピール。

住民は、いろんな角度からダニーへ勧誘活動をする。(2,3日目ぐらいから、明らかに他の客への態度と違う)

ペレは、「僕は君と一緒だ、ダニーの気持ちはよくわかる。僕も孤児だったからね。でもそんな孤児を、村は暖かく守ってくれるんだよ。君は今どうなの?」とダニーに寄り添いつつ、揺さぶる。

同年代の村人女性と一緒にパイを作り、その村の民族衣装を着させたりすることで、共感や親近感を植えさせる。

そして決め手は、ダンス大会で勝ってしまったことだ。

もしこれが出来レースだとしたら、マジでこの村の勧誘力は半端ないよ。(偶然っぽく見えたけど…真相はいかに?)

ダニーはダンス大会に勝ったことで、"村人"の役割をしっかりと与えられてしまった。

なんだか地位が高そうな上に、他の住民が憧れるような役割を。

そんな役割を与えられたことで、見事ダニーは村の住民になった。

悲しいときや嬉しいときに、何も言わずに全く同じ感情を表して共感する人たちに囲まれ、暖かく受け入れてくれる組織に所属することで、やっと彼女は安心することができた。

不安を抱えて生きていた彼女に、重要な役割を与え、そのままの自身を受け入れてくれる。

そんな唯一無二のような組織を得たのだ。

だから彼女は、エンディングで幸せそうに笑っていた。

これを見て、ヒエーーッ!こうやって人は仲間になるんだよねーー!ってなりました。

人を勧誘したい人は、マジでミッドサマーを参考にしたらいいと思います。

いや~、1回ネタバレを踏んでるからだと思うけど、めちゃくちゃ冷静に見てしまいましたね。

この作品の怖さについて

グロさについては、先輩の言う通りで、SAWが見れれば何の問題もないです。

そんなにリアルじゃなく、作り物感が強いので、そこまでキツくない。

それよりも私が冷や汗をかいたシーンは、グロいシーンではなくて、想像力を煽ってくるシーン。

一番ヒエッとしたのは、映画の終盤。

クリスチャンがクスリによって体を動かなくされ、大祝賀祭に必要な供物の一人として犠牲者に選ばれた後。

お腹をパックリ開かれた熊がテーブルの上に置かれ、「いいか?この内臓を取るときは、こうやってやるんだ」とおじいさんが9歳ぐらいの子どもに実践教育をする。

そこに、乳母車(のような車いす)に乗ったクリスチャンのアップ映像。

「エッ、まさかクリスチャン、生きたまま内臓えぐり取られるの…?しかも、初心者の子どもによって…?」

「エッヤメテーー!悲鳴聞きたくないよーー!」とヒヤヒヤし、思わず映像を飛ばそうかと思ったぐらい。

結果、そんな映像は流れなかったのでホッとしましたね…

このように、想像することでヒヤッとするシーンは頻繁にありました。

例えば、ダニーがクイーンとして選ばれた後の、地面に穴を掘って小麦と内臓と卵を埋める儀式のシーン。

「エッまさかこれ、供物に選ばれた"人"の内臓…?」と想像させられる。

他にも、女性が生理で流れる血をバケツに入れるシーンが描かれた絵を視聴者へ見せた後に、薄紅色の飲み物がアップになることで、吐き気を催させたり。

この映画の怖さは、画力によるグロさではなく、想像力を煽らせるところにありますね。

他にも、ペレの目的に気付いた瞬間とかヒヤッとしました

この映画を見終わった後、「色々置いといて、一番怖いのってペレじゃね?」とハッとしました。

だって、明らかに殺す目的で"友人"5人を連れてきてます。

(え、違うのかな?本当は外から人を引き込む繁殖目的だったのかな?)

(でも、他カップル2人は、村への禁忌を犯すわけでもなく、村から出ようとしただけで殺されてたよ。そして、その二人を連れてきた村の人は表彰されてたよ、「よくぞ供物を連れてきてくれた」と。やはりペレも供物目的で連れてきたのではないか?)

なのに、あそこまで優しく親しい姿勢で友人たちに接することができる、ペレ。

祝賀祭中、日に日に友人がいなくなることについて思い当たる節があるはずなのに、自然体で過ごしている、ペレ。

そんな違和感を残しながら、ダニー目線だとめちゃくちゃ支えになる、ペレ。

エッ、怖くない?

村では、生命は輪なんだ、と言っていました。

死者は生まれ変わる。それを表すため、死者の名を赤ちゃんが引き継ぐ、と。

その考えを心底信頼しているから、人の死に対して何にも思わないということなんだろうか。

でも、マークやジョシュの名前はこの村の赤ちゃんに引き継がれるの?あんな殺され方をしても?

引き継がれるとしたら、ペレの穏やかさも納得できるけど…

真相は一体。

ミッドサマーの面白さについて

ミッドサマーを見ていて特に関心したのは、設定の豊富さと設定の徹底ぶり。

人を殺す村の人って、ちょうど36〜54歳は労働する「秋」、そして54〜72歳は教育係となる「冬」の人たちに見えたんですよ。

ダンスの掛け声をするおばちゃんとかも、50代に見えた。

つまり、ちゃんと設定に合わせて36~54歳の人が労働しているし、54〜72歳の人が教育しているんだと気付いたとき、オオーッと思いました。

ミッドサマーは、とにかく伏線のように見える設定が豊富すぎる。

ルーン文字とか、部屋の壁の絵とか。72歳以上の人が自殺したロケーションにあった大きな岩とか。食事中に無言で行われる独特なルールとか。

全てを説明しすぎず含みを帯びているから、「もしかしてこれって…」「エッこれ、繋がってたりする…?」と思わせる。

ハリーポッターが好きな人はミッドサマーもハマるんじゃないかな。

それぐらい、設定が豊富でした。

いくらでも深堀できそうで、ハマる人には沼のようにハマると思う。

最後に

ここまで書いたけど、先輩の言う「スカッとする感じ」は全然わからなかったな…

大学生5人のうち3人殺されたことに対して、納得できてないからかも。

ジョシュは確かに、絶対ダメなことをしちゃったから仕方ないとしても、クリスチャンとマークは殺されるまでのことをしたかなあ?と思っちゃう。

私はそこに対して、スカッとできなかったなあ。

村から出ていったカップル2人が殺されたことも、もやもやするし。

でもまあ、村の価値観で考えれば、殺されて当然なんだろう。と自分に言い聞かせている感じ。

だから、村の価値観が分からないはずの人たち(=先輩等の視聴者)がスカッとすることのほうが、私は怖い。

大学生3人(クリスチャン・ジョシュ・マーク)に、そんな憎まれる要素があった?と思っちゃうなあ…

まあ…みすず(みんな違って、みんないい)だよね…

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また見たいかは置いておいて、とにかく面白かったです!

色んな人の考察記事を読み漁りたい。

ミッドサマー 予告編

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