エッセイ

私が「大人」と聞いて思い浮かべるのは、いつも特定の人だ。

一人は、中学生のころの国語の教師。

その人は、私が中学生当時、60代後半の女性だった。

生徒からは、少しバカにされていた。

というのも、吃音症っぽかったからだ。

発音1つ1つが大げさで、ゆっくり話す。

私はそれが好印象だったが、他生徒はそうでもなかったみたいで、早口に話せない彼女をバカにしているようだった。

今となっては苗字すら覚えていないその女性の何が印象的だったかというと、子どもに向ける姿勢だ。

私は、その先生が担任の先生だったわけではないが、なぜか好きだった。

気になっていたといってもいい。

友人が少なく、暇さえあれば図書室に向かう私は、その先生に「おすすめの本を教えてください」とよく話しかけていた。

その先生は、私の視野をずいぶんと広げてくれた。

最初におすすめしてくれた本は、「蝉しぐれ」だ。

中学2年の子どもに向けておすすめする本ではなかったと思う。

でも、彼女は、「中学2年生の子ども」ではなく、「わたし」を見てこの本を紹介してくれたのだと思った。

そのほかの先生は、「中学2年生の子ども」を相手していた。「わたし」ではなく。

少なくとも私はそう感じていた。

そんな中、彼女は、対等である1人の人間を相手にしていた。

学生を侮るでもなく、期待するでもなく、等身大の「人」として見る。

その姿勢を、私は何より好んでいた。

次に薦めてくれた本は、日本人が南極に行ってイヌイットとともに暮らすドキュメンタリーだった。

レビュー,

この本は、前回紹介した文庫『怖い絵』の著者と同じく、中村京子さんが書いた本です。

絵自体が怖いのではなく、その絵が描かれるまでのストーリーが、怖い。

2021年上半期は、中野京子さんがマイブームだったので、中野京子さんの本はほとんど読みました。

その中でも、文庫『怖い絵』と同じぐらい面白かったのが、この本。

今回紹介する新書『印象派で「近代」を読む』は、3ページに一回くらい絵画をカラーで説明してくれるので、かなり気軽に読むことができます。

トイレや寝室に置いて、ボーッとしたいときに眺めるのもいいかもしれません。

読書が苦手な方でも楽しめるほど、退屈な字面が少ない、芸術解説系の本にしては珍しい本です。

この本の面白いところは、絵画自身の話をするのではなく、その絵画が描かれた当時に生きていた人たちの人生を、絵画を通してリアルに想像させてくれるところです。

日本では、印象派展が頻繁に開催されているほど、ファンが多いですよね。

では、なぜ日本では印象派が人気なのか?

それは、印象派は絵画の知識がなくても楽しめるからです。

エッ?それまでの絵画は、知識がないと楽しめないものだったの?とお思いのあなた。

はい、その通りです。

それまでの絵画は、知識がある人達のマウントの取り合いのために描かれていた

パロディが面白いのは、原作を知っているから。

絵画も同じです。

今までの名作を真似して、自分の味を出す。もしくは、原作をもとに、自分の味を出す。

だから、その絵画が何を言いたいのか汲み取ることができなければ(原作を知らないのなら)、その絵画自身には何の面白みもないんです。

そんなマウントの取り合いが行われる中、印象派がなぜ人気になることができたのでしょうか。

興味がある方にはぜひ読んでほしい一冊です。

印象派(ゴッホ、モネ・・・)の絵画がすごく好きで、展覧会に足を運んでいる方にも是非読んでほしい!

展覧会の音声ガイドよりよっぽどわかりやすく、そして面白く解説してくれているので。

そして何より、キレイな絵をじっくり見ることでうっとりできるので、やっぱりこの本は最高です。

レビュー,

絵画好きの方の間では、有名なこの著書。

「怖い絵ってタイトル、安直だなあ。どうせ絵自体がゾッとするものなんでしょ?」と思っていました。読む前までは。

結果的に言うと、絵自体が怖いものと、絵自体は全く怖く見えないものが半々でした。

では、絵自体は怖くないのに、なぜ"怖い"と感じるのか?

著者では、絵画がカラーで掲載されて、その後その絵画の怖さについてストーリーで解説されています。

なので、絵画を見て、「ん?この絵のどこが怖いんだ?」と疑問を持つほど"普通"な絵もあります。

そして、その絵画が描かれるに至ったストーリー理解した後に絵を見直すと、その絵の怖さを理解してしまい、ゾッとするんです。

私たち読者は、この本を通して、人間の残酷さと残虐さを目の当たりにします。

人間が人間であるが故に持っている、普遍的な残酷さと残虐さを。

そして、「昔あった怖い話」が現代にも通用することに、ゾッとすることでしょう。

少なくとも私は、「絵自体は全く怖く見えないもの」の方が、恐ろしかった。

なぜなら、その世界観に違和感を感じないほど、私自身もその残酷な世界に馴染んでいるという証拠だから。

この本で特に印象的だったのは、著書の中で紹介される、ダヴィッドによる「マリーアントワネット最後の肖像」と、ジョルジョーネによる「老婆の肖像」です。

(どちらもググったら出てくるので、ぜひググってみてね)

これは、私が女性だからというのが影響しているかもしれません。

昔の女性の人生と、現代の女性の人生を考える上で、ぜひ読んでほしい一冊ですね。

読者は、魔女裁判の恐ろしさを、人に嫌われることの恐ろしさを、異端を排除する民衆を、人間の感情の豊かさと、その感情に支配される人間を、この本を通して目の当たりにするでしょう。

そして、現代にもそれを必然的に投影してしまう。

一見、現代は中世に比べ、優しくみえるかもしれません。

しかし、その優しさがこれからも続く保証はない。(そして、その優しさは、本当に"優しい"のでしょうか?)

なぜなら、人間は生まれ持って残虐だからです。

少々不穏な感想になりましたが、エンタメとしてもめちゃくちゃ面白い本なので、ぜひたくさんの人に読んでほしい一冊です。

↑Kindleが最安なのでKindleがオススメですが、読むときはKindleではなくタブレットで読む方が絶対にいいです。絵画はカラーで見ないと面白くないので…

なぜ日本では印象派が人気なのか?が分かる一冊。

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