文庫『怖い絵』(中野京子)は、スリルのあるエンタメ教養本。絵画・美術館好きは必読。【読後レビュー】
絵画好きの方の間では、有名なこの著書。
「怖い絵ってタイトル、安直だなあ。どうせ絵自体がゾッとするものなんでしょ?」と思っていました。読む前までは。
結果的に言うと、絵自体が怖いものと、絵自体は全く怖く見えないものが半々でした。
では、絵自体は怖くないのに、なぜ"怖い"と感じるのか?
著者では、絵画がカラーで掲載されて、その後その絵画の怖さについてストーリーで解説されています。
なので、絵画を見て、「ん?この絵のどこが怖いんだ?」と疑問を持つほど"普通"な絵もあります。
そして、その絵画が描かれるに至ったストーリー理解した後に絵を見直すと、その絵の怖さを理解してしまい、ゾッとするんです。
私たち読者は、この本を通して、人間の残酷さと残虐さを目の当たりにします。
人間が人間であるが故に持っている、普遍的な残酷さと残虐さを。
そして、「昔あった怖い話」が現代にも通用することに、ゾッとすることでしょう。
少なくとも私は、「絵自体は全く怖く見えないもの」の方が、恐ろしかった。
なぜなら、その世界観に違和感を感じないほど、私自身もその残酷な世界に馴染んでいるという証拠だから。
この本で特に印象的だったのは、著書の中で紹介される、ダヴィッドによる「マリーアントワネット最後の肖像」と、ジョルジョーネによる「老婆の肖像」です。
(どちらもググったら出てくるので、ぜひググってみてね)
これは、私が女性だからというのが影響しているかもしれません。
昔の女性の人生と、現代の女性の人生を考える上で、ぜひ読んでほしい一冊ですね。
読者は、魔女裁判の恐ろしさを、人に嫌われることの恐ろしさを、異端を排除する民衆を、人間の感情の豊かさと、その感情に支配される人間を、この本を通して目の当たりにするでしょう。
そして、現代にもそれを必然的に投影してしまう。
一見、現代は中世に比べ、優しくみえるかもしれません。
しかし、その優しさがこれからも続く保証はない。(そして、その優しさは、本当に"優しい"のでしょうか?)
なぜなら、人間は生まれ持って残虐だからです。
少々不穏な感想になりましたが、エンタメとしてもめちゃくちゃ面白い本なので、ぜひたくさんの人に読んでほしい一冊です。
↑Kindleが最安なのでKindleがオススメですが、読むときはKindleではなくタブレットで読む方が絶対にいいです。絵画はカラーで見ないと面白くないので…