わたしにとっての「大人」③
私が「大人」と聞いて思い浮かべるのは、いつも特定の人だ。
三人目は、小学生のころネトゲで知り合った、当時25歳の友人。
私は彼のことを「空さん」と呼んでいた。
彼は、私が抱いていた「大人」の幻想を打ち破ってくれた、大切な人だ。
思春期時代、ずーっと関わっており、私は兄のように慕っていた。
現在の私の性格は、かなり彼に影響されたとおもう。
私が9歳のころ、自宅にデスクトップパソコンがやって来た。
来た瞬間から、ネット社会にどっぷりとハマった。
なんでハマったかというと、
1 顔が直接見えないから、取り繕いやすい
2 顔が直接見えないから、大人と対等に話せる
この2点が主な要因だ。
というのも、私は早生まれが作用したせいか、はたまた家庭環境の劣悪さのせいか、同年代の知人と時間を共有するのが苦手だった。
物心がつきはじめた、小学1年生のころ。
知らない人がたくさんいるクラスで、これからの1年を快適に過ごすために、たくさん笑うフリをしたのを覚えている。
今でも強烈に覚えているのは、相手がふざけていて、「あ、笑ってほしいんだな」と察し、「笑ったフリをしよう」と思ったが、「爆笑」の表情は取り繕えないものだと気付き、自分の顔を腕で覆って、「アッハッハ」と声だけで爆笑したことだ。
相手は喜んでいたが、私自身とっても苦しかったのを覚えている。
たぶん当時の私は、関わる人全員に気に入られたかった。
私の居場所が欲しかった。
どんな人がみんなにまんべんなく好かれているのか、いつも観察していた。
みんなに好かれるのはよく笑う人だと気付いてからは、何を聞いても笑うようにしていた。
全く面白くなくても、何度同じ話を聞いても、笑うようにしていた。
その習慣は、小学6年生まで続いた。
「みんなにまんべんなく好かれたい」
「でも笑うフリはとっても疲れる」
学校での生活はそんな矛盾を抱えていた。
その習慣が作用して、実際クラスではいい感じのポジションにいたが、苦しくて苦しくてたまらなかった。
また、学校だけじゃなく、姉の反抗期と母のヒステリックが相まって、家庭環境も最悪だった。
子どもの頃、両親の喧嘩が大嫌いだった。
朝も夜も、父と母は顔を合わせればいつも怒鳴りあっていた。
「なんで喧嘩ばっかりするんだ、やめてくれ」
そう思っていたが、それと同じくらい、大人じゃないうえに完璧じゃない自分が悪いんだと思い込んでいた。
大人は完璧な存在で、大人が言うことは必ず正しい。
そんな大人が理由もなしに喧嘩するはずない。
じゃあ喧嘩の理由はなんだ?
私だ。
私の存在が、母の余裕を奪い、父の自由な時間を奪っている。
学校は息苦しい。家に帰れば怒鳴りあいが常。
そんなとき、デスクトップパソコンが来たのだ。
学校からも家庭からも逃れられる、最高の現実逃避が。
そりゃあどっぷりハマるよね。
最初にハマったのは、yahoo!ブログだ。
特に執着したのは、yahoo!ブログシステムの「人気度」ってやつ。
人気度っていうのは、文字通り、”どれだけこのブログが人気か”を★五つで評価したもので、ブログを開いて1秒でそのブログがどれだけ人気か分かってしまう。
【人気度】
☆
★
★☆
★★
★★☆
★★★
上が一番人気ない状態、下が一番人気ある状態だ。
★五つで評価されるって言ったけど、★五つ並んでいるのは見たことがない。★三つはかろうじて見たことがあるレベル。
どうやって人気か評価されるかっていうと、
・コメント数
・傑作数(今で言う、「いいね!」の数)
主にこの2つだ。(私調べ)
当時の私はどうしても人気度が欲しくて、どうしたらコメントや傑作をもらえるか、どんな記事が流行るのか、どんな文が人気なのか、どうしたらお気に入り登録してもらえるかばっかり考えてた。
当時は(いまもかな?)、アイコン作成依頼が流行っていた。
アイコンっていうのは、ブロガー必須の看板みたいなもので、そのバナーがオシャレだと、わりとみんなお気に入り登録してくれたりする。
しかも、アイコンを作成依頼を完了すると必ず「傑作」がもらえる!
それに気付いてからは、アイコン作成依頼に時間を費やした。
ペイントだとオシャレにならないからピクトベア(当時流行ってた画像加工ソフト)をDLして、人気度★★ぐらいのブロガーのサイトをチェックして真似しまくって。
「一通りできるぞー!」ってなったら、手あたり次第宣伝して。
(「アイコンこんなの作ってるんでぜひ依頼してくださいー!」)
そのあと個人でアイコン作成依頼をもらったら、その人自身はどんなアイコンが好きそうかコメントでめっちゃ聞いて作った。
(依頼人の好みは原色?パステルカラー?デザインはごちゃごちゃ系が好き?それともシンプル系?)
そんな感じで、yahoo!ブログにハマり、人気度も★☆までいったりしたけど、そこでも辛くなっていった。
というのも、「人気になりたい」っていう気持ちと、「人気になるためのやりとりが苦痛」っていう気持ちが戦っていたから。
コメントをもらったら、コメントを返さなきゃいけないし、傑作をもらったら、傑作を返さなくては次に続かない。
ブログで得た人間関係は、傑作をもらうための損得勘定で築いたもので、心を許せる人には出会えなかった。
どんどん楽しくなくなっていった。
でもほかに熱中できるものもない。
そんな中、見つけちゃったのよ。ネットゲームを。
そんなこんなで小学5年生(11歳)にyahoo!ブログを卒業し、同年ネットゲームへ入学。
その後、中学3年生(15歳)までネトゲにどっぷりハマっていた。
ちなみに、ネトゲで小学生を名乗れば「嘘だろ?」となるので、ずっと年齢詐称してました。
小学5年の時点で高校1年生のフリしてたから、なかなかだよね。
まあ、ギルドの皆にはバレてたと思うけどね!!なんて恥ずかしいんだ!!
そんな中ネトゲで出会ったのが、「空さん」。
私が小学5年生(11歳)の時、25歳…って言ってたかな?
だから、まあ、年齢差14歳の友人ってなわけです。
突発的にパーティを組んだ中で、「ギルドに入らないか」とお声掛けを頂き、ギルドに参戦した。
はじめての対等な大人。
話す内容すべて刺激的で、お互い顔が分からないネット社会だから上下関係とかもなく、たくさん甘やかしてもらった。
ネット社会って、優しい世界なのよ。
ていうのは、「www」で笑ってるように見えるのよ。
実際画面の向こうで笑ってなくても。
しかも、コメントだと考えてながら文章を構成するけど、チャットだとリアルタイムだから考える暇無く会話が成立する。
相手の顔色が見えないから、思ったことぽんぽんいえる。
私にとって、それがとっても楽だった。
ネット社会がすっごく楽しくて、自分の居場所があるってことがうれしくて、家にいる時間は、食を忘れてずーーーっとネトゲ。
休日は、朝から夜明けまでネトゲ。24時間ネトゲ生活。
そんなネトゲ生活のうち、半分以上は空さんと過ごしてました。
空さんの彼女は巨乳って話から、遺産相続の話まで、ありとあらゆる話題を繰り広げてた。
空さんオススメの漫画は全部買って読んでたし、家庭の相談とかも全部空さんにしてた。
対等に向き合ってくれる大人とたくさん話していくうちに、大人は完璧なフリをしているだけで、悩みもあるしダメなところもある、ふつうの人間だってことが分かっていった。
大人に対する偏見がなくなっていった。
そして、私に心をさらけだしてくれて、私も心をさらけだせる。
そういう相手が1人いるだけでめちゃくちゃ精神的に楽になるんだと体験した。
自分の意見を臆せず言えるようになったのも、喧嘩ばかりの親を見て育った私が「大人」に対して敵対意識を持たず生きていけるようになったのも、空さんっていう存在のおかげ。
今はもう連絡を取っていないし、メールアドレスも忘れてしまったから連絡の取りようがないんだけど、「今の私」を作ってくれた、大切な人。
わたしのなかでイメージする「大人」のうち、三人目は、私の苦しさを受け止めてくれて、大人の等身大を教えてくれた人。
今の私とそんなに年齢が変わらない、空さん。
今、空さんはどう過ごしているのだろう?
結婚して、子どもを授かったりしているのかな。
元気だといい。幸せだといいな。