エッセイ

私が「大人」と聞いて思い浮かべるのは、いつも特定の人だ。

二人目は、同じく中学生の頃の担任の先生。

私が中学2年生のころ、30代前半だった男性だ。

彼の名字は、一人目の女性と違って、覚えている。

ヤマネ先生。

私は、中学2年生のころ、いじめにあっていた。

いや、”いじめ”というと大げさかもしれない。

しかし少なくとも私が発表するときいじめの主犯格と仲のいい人からは嘲笑が起こったし、無視されることもあった。

私の容姿で特徴的な部分を、私のあだ名にして陰口を言っていることもあった。

そうされることに、私は傷付いていた。

そういうことがあったのは本当だ。

そういったことがあったから、嘲笑が起こらないよう自意識過剰になったり、周囲の人をよく疑うようになった。

しかし負けん気が強かった私は、嘲笑されても「ええ~、いじめ?ウケる~」ぐらいの態度でいるようにしていた。

「修学旅行のグループアイツと一緒かよ、ありえねえ~」と言われても、無表情を貫いていた。

「私を傷付けることができた」

そう思われないようにするために。

いじめの主犯格やその周辺がどうしようが、わりとどうでもよかった。

集団にならないと私に対抗できない人の意見は耳に入れないようにしているからだ。

しかし、「あの人いじめられているのね、可哀そうに」という視線には耐えられなかった。

エッセイ

私が「大人」と聞いて思い浮かべるのは、いつも特定の人だ。

一人は、中学生のころの国語の教師。

その人は、私が中学生当時、60代後半の女性だった。

生徒からは、少しバカにされていた。

というのも、吃音症っぽかったからだ。

発音1つ1つが大げさで、ゆっくり話す。

私はそれが好印象だったが、他生徒はそうでもなかったみたいで、早口に話せない彼女をバカにしているようだった。

今となっては苗字すら覚えていないその女性の何が印象的だったかというと、子どもに向ける姿勢だ。

私は、その先生が担任の先生だったわけではないが、なぜか好きだった。

気になっていたといってもいい。

友人が少なく、暇さえあれば図書室に向かう私は、その先生に「おすすめの本を教えてください」とよく話しかけていた。

その先生は、私の視野をずいぶんと広げてくれた。

最初におすすめしてくれた本は、「蝉しぐれ」だ。

中学2年の子どもに向けておすすめする本ではなかったと思う。

でも、彼女は、「中学2年生の子ども」ではなく、「わたし」を見てこの本を紹介してくれたのだと思った。

そのほかの先生は、「中学2年生の子ども」を相手していた。「わたし」ではなく。

少なくとも私はそう感じていた。

そんな中、彼女は、対等である1人の人間を相手にしていた。

学生を侮るでもなく、期待するでもなく、等身大の「人」として見る。

その姿勢を、私は何より好んでいた。

次に薦めてくれた本は、日本人が南極に行ってイヌイットとともに暮らすドキュメンタリーだった。

エッセイ

母が、家を出ていった。

寂しさと、ホッとした気持ちがあった。

もう母が壊れることはない。これで安心だ、そう思った。

強烈に寂しい。しかし、時間が経てば。

そう思っていた。

なのに、母は帰ってきてしまった。

母の気配を感じた私は、玄関のドアを勢いよく開ける。

くたびれた洋服を着ている、いつもの母が、そこにいた。

「もういい!

 もう、いいよ!・・・・・・もう、いいの。」

涙が込み上げる。

なんで帰ってきたの!

嬉しい。また会えて、嬉しい!

そんな気持ちが、同時に湧きあがる。

でも、もういい。本当に、もういいの。

もう、楽になってほしい。

なのに、帰ってきてしまった。

「もういい、

 もう、いいのに・・・」

泣き崩れる私を見て、

母は、今までに見たことのない穏やかさで、私に近づく。

『ねえ、私たちって、みんなに見えていないものが見えているみたい。』

『だから、しょうがないのよ。』

母が軽快に、優しく笑う。

電撃が走る。

ああ、お母さん!

やっと、分かってもらえた!

何をどうしても、この人には伝わらない。

何度も無力感に襲われた過去が、今までの苦心が。

ここにきて初めて、"報われた"。

私は、もう言葉を発することができず、

ただ、泣くことしかできない。

母は、仕方ないわね、と笑っている。

ああ、なんて、あたたかい。

きいろい光に包み込まれる。

私は、私はずっと、

誰かに私と同じ目線に立ってもらいたかったんだ。

ずっと、寂しかったんだ。

そして、その「誰か」は、できることならあなたがよかったんだ。

包み込まれて、寒かった私に気付く。

今、こんなにあたたかい。

母が、ゆっくり近づいてくる。

涙は、しばらく止まりそうにない。

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